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小説

水車小屋のネネ 津村記久子

津村記久子さんの『水車小屋のネネ』を読みました。

自分が無理なくできる程度ならば、もう迷いなく、惜しみなく、誰かの手助けをしようと強く心に思いました。

どんなおはなし?

誰かに親切にしなきゃ、人生は長く退屈なものですよ

自分はおそらく、これまでに出会ったあらゆる人々の良心でできあがっている

18歳と8歳の姉妹がたどり着いた町で出会った、しゃべる鳥〈ネネ〉。ネネに見守られ、変転してゆくいくつもの人生――

「家出ようと思うんだけど、一緒に来る?」

身勝手な親から逃れ、姉妹で生きることを決めた理佐と律。

ネネのいる水車小屋で番人として働き始める青年・聡。

水車小屋に現れた中学生・研司・・・人々が織りなす希望と再生の物語

助け合い支え合う人々の40年を描く長編小説 (本書帯より)

読んだ感想

進学を決めていた短大の入学金を意図して期日内に支払わなかった母。

それに対して怒りをぶちまけるでもなく、自分にとって親は信用したり、頼りにできる部類の大人ではないのだと自分の境遇を悟る理佐、18歳。

この時点でもうなんだか胸が詰まります。

理解できなくなった親から逃れるべく、8歳の妹・律を連れて家を出ることを決めた理佐。子どもではないけれど、まだまだ大人とも言えない年齢の理佐が、自ら生計を立て、妹の保護者の役目も担う。それは波乱な人生の始まりにも思えましたが、彼女たちの歩む道はたくさんの小さな親切で支えられ、希望に満ちたものになるのでした。

”鳥の世話じゃっかん”と付記された仕事を見つけた理佐は、律を連れて自然豊かな町に越し、水車小屋のあるそば屋で働くことにします。水車小屋にはネネというヨウムが住んでおり、この陽気でおしゃべりなネネの世話ともいえない交流が姉妹の心細さや寂しさを紛らわせ、生活を彩ります。

そして、そば屋を営む気さくな夫婦をはじめ、この町には姉妹を見守る人がたくさん。みんな最初は姉妹だけの生活を不安視していましたが、次第に理解を示し、それぞれに自分の荷物を抱えながらも無理のない範囲で姉妹に手を差し伸べてくれます。

周囲の親切を心からの感謝で受け止め、自分のできることで返そうとする理佐。恵まれない境遇ながらも決して卑屈にならず、地に足をつけ歩いていく理佐の姿に心を打たれます。その理佐の誠実さが、自暴自棄になってこの町に流れ着いた聡の心を洗い、いつしかふたりは心を通わせる仲に。ふたりの言葉や行動からは、互いを敬い大切に思う心が深く感じ取れ、その絆を丁寧に描いた素敵な場面がたくさんありました。

月日が経つにつれ、姉妹に関わる人間は少しずつ入れ替わっていきますが、誰かの思いや言葉は受け継がれ、影響を与え、そしてそれが何か新しいきっかけになることも。こんな風にして人と人が関わり合う場は縦にも横にも紡がれていくのだなあと温かい気持ちになりました。

この物語を通して一番考えたこと。それは責任問題や役割分担、そんな面倒なことを考えず、みなが人生の先輩としての親切心を少しずつ持ち寄れば、なにも大きな支援なくとも回っていくことが実は多いのではないかということです。

「一緒に職安に行ってあげる」

振り返れば、最初に理佐を救ったのはバイト先の先輩、光田さんのこの言葉です。進路が経たれ、途方に暮れる理佐に単純に社会で生きていく術を教えてくれた大人。大それたことではないけれど、このサポートがまだ半分子どもの理佐をどれほど心強くしたでしょう。そして、40年という歳月のなかで、この光田さんとの交流も途絶えてなかったことが嬉しい。

自分の知識や経験が少しでも誰かの支えになることは、自分が今まで生きてきたことを単純に肯定できる何よりの理由になるかもしれないな、としみじみと感じさせられた物語でした。

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