角田光代さんの『さがしもの』を読みました。
本にまつわる素敵なお話が詰まった短編集。
ーあの頃の気持ちをふっと思い出すー
誰が読んでも1つはこの本のなかにそんな物語を見つけるのではないでしょうか。
内容(「BOOK」データベースより)
「その本を見つけてくれなけりゃ、死ぬに死ねないよ」、病床のおばあちゃんに頼まれた一冊を求め奔走した少女の日を描く「さがしもの」。初めて売った古本と思わぬ再会を果たす「旅する本」。持ち主不明の詩集に挟まれた別れの言葉「手紙」など九つの本の物語。無限に広がる書物の宇宙で偶然出会ったことばの魔法はあなたの人生も動かし始める。
読んだ感想
短編でありながら、9作品どれも深く心に沁みる作品でした。
私が特に好きな話はこの2つ。
『彼と私の本棚』と『初バレンタインデー』。
誰もが経験する初恋と失恋。それは子どもから大人へと変わる通過儀礼として、物語のテーマとしてはよく焦点を当てられるものですが、ここに”本”というキーワードが入り込むことで本好きにはたまらなく心に沁みる世界になります。
『彼と私の本棚』は失恋の物語。主人公は別れることになった彼と共有していた本棚を整理しているときに、好きになった人と別れるということの意味を痛感します。モノを分配するようには分けられない思い出が本棚には詰まっていて、自分たちだけが分かり合えた世界観さえも壊してしまわなければならないつらさに胸がしめつけられます。
『初バレンタインデー』では初恋がテーマ。かつて好きな人に渡した本のプレゼント。思ったような反応はなく、その大好きな本さえも苦く恥ずかしい思い出と一緒くたになってしまった主人公。しかし時を経て、ひょんなことからやっぱり良かったと笑みがこぼします。あのとき好きな人に好きな本を渡したこと、それを恥ずかしく思ったこと、どれも大人になったいまなら愛おしく思える思い出ばかり。そして、それはもう今からは味わうことのできない感情なのです。忘れかけていた甘酸っぱい記憶が蘇ります。
どの短編も「人生はすぐには分からないものばかり」ということを教えてくれるお話でした。誰しも迷いや後悔があり、その答えを探しながらいつのまにか大人になって、ふとした場面で「これかもしれない」という答えを見つける。人生はそんな風に長い時間をかけて味わうものだと深く感じました。
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