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小説

彼女の家計簿 原田ひ香

原田ひ香さんの『彼女の家計簿』を読みました。

時代を越えた女性たちの苦労を背負いながらも自らの足で必死に生きる姿がそこにはありました。

非常に面白かったです。

内容(「BOOK」データベースより)

シングルマザーの里里の元へ、疎遠にしている母親からぶ厚い封筒が届く。五十鈴加寿という女性が戦前からつけていたという家計簿だ。備考欄に書かれた日記のような独白に引き込まれ読み進めるうち、加寿とは、男と駆け落ち自殺したと聞く自分の祖母ではないかと考え始める。妻、母、娘。転機を迎えた三世代の女たちが家計簿に導かれて、新しい一歩を踏み出す。

読んだ感想

家計簿のメモには戦争や家族に対する嘆きに満ちた内容も多く、身も心も不自由な暮らしのなかで家計簿に小さく綴ることだけが唯一自分の気持ちを吐き出せる場所だったことが伺えます。夫の無事の帰還に喜んだのも束の間、その後の職が確保されているわけでもなし。心のショックから酒に頼る夫とその暮らしに辟易する妻。女性目線の戦争には残酷さとはまた違った胸の詰まりがあります。

そして、自立したいという気持ち、誰よりも子どもを近くで見守りたいという母の心には、現代に生きる女性と何一つ変わらないものがあり、どの時代も女性は必死に戦っているんだなあと感じました。

里里は加寿の孫であり、訳あって娘を一人で育てるシングルマザー。晴美は女性の社会生活を援助するNPO団体の代表。どちらも自分の過去を断ち切れずにくすぶっている。そんな二人が加寿の家計簿を縁に繋がり、加寿のメモを頼りに残された謎を解き明かすとき、二人はやっと逃げていた自分の過去と向き合うことができます。

時代を越えた、家計簿という意図せぬメッセージから、縦の繋がりと横の繋がりの大切さを教えられます。誰かと繋がり、助け合いながら生きていくことはとても力強く、素敵なことだと感じさせてくれるお話でした。

印象に残ったところ

過去に晴美が気に入って買おうか迷ったあげく、結局やめた仏像のことを思い出す場面。38万円という絶対に買えない、とはいえない値段。「買っておけばよかった」、「やぱり買わなくてよかった」という感情の動きは、いつも自分の今の人生の満足度をはかる指標になっていると晴美は分析する。これは私自身にもよく当てはまり、わかるわ~と思わず頷いてしまいました。こういう個人の価値観を表現するのが、原田ひ香さんは上手だなあと改めて思いました。

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