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エッセイ

大阪 岸政彦 柴崎友香

本屋で目に留まった一冊。

岸政彦さん、柴崎友香さん共著の『大阪』です。

柴崎友香さんの小説は何冊か読んだことがあり、同じ大阪の人であるうえに、出身高校やら出身大学が自分と所縁のある学校だったりして、勝手に身近な存在に感じています。

その柴崎さんが「大阪」をテーマに本を出したのか。どうもエッセイらしい。

気になってちらっと覗いてみると、出てくる固有名詞が大阪で生まれ育った私には馴染みのあるものばかり。ちょっと嬉しくなり、これはじっくり読みたいと即購入。

そして、この本の共著者である岸政彦さん。この方の作品も読んだとこあるような、、と調べてみると、『断片的なものの社会学』の作者でしたね。私が普段読んでいる小説は誰かの人生の挫折やターニングポイント、あるいはそれに付随する心情を嚙み砕くようなものが多いですが、『断片的なものの社会学』は、社会をランダムに望遠鏡で覗いて記録したような内容、そして、そこに正解も不正解も与えない独特の作風に度肝を抜かれたことを覚えています。岸さんは大阪に住まれている方なのかと、これも少し驚きでした。

さて、本書を読んでみた感想ですが、一言でいうと、昔聞いていた曲を久しぶりに聞いたような感覚。

懐かしい、切ない、、そんな言葉でははっきりと表せないような(今なら「エモい」の一言で片づけられるけど、、)いろんな感情が脳内から呼び起こされました。

同じ大阪という地を踏んでいるとはいえ、私は柴崎さんと岸さんとは世代が違う。見てきた景色も背景の出来事も共有していないはずなのに、どうしてこんな気持ちになったのか。それはきっと、少しずつ変化しているとはいえ、自分たちを取り巻く大阪独特の空気感や大阪人であることの自覚のようなものは世代を超えて通づるものがあるからのように思えます。また大人になるにつれて、自分の育った街を” 地元”として外からの目で見ていく過程にも共感できました。

もちろんこの作品は思い出エッセイではありません。岸さんが「大阪に来た人」という立場で、柴崎さんが「大阪を出た人」という立場で、それぞれが大阪という街を客観的または主観的に語っていく作品です。移ろう時代のなかで大阪という街がどのように変わっていったのか。そして、それは一人の人間の目にはどう映ったのか。歴史書には刻まれることのない、人間の営みとともにある大阪の変化が描かれた貴重な一冊だと思います。

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