小説

ポトスライムの舟 津村記久子

津村記久子さんの芥川賞受賞作、『ポトスライムの舟』を読みました。

生活を回すためだけに働いている虚しさ、やるせなさを描きながらも、どこか一筋の光を感じさせてくれる物語でした。

どんなあらすじかと少しお話しますと、、

契約社員として工場勤務を続ける29歳のナガセ。職場でふとNGO主催の世界一周クルージングのポスターが目に留まります。世界一周か、、と考えているうちに、その費用163万円という額が自分の工場勤務の年間の手取りと同額であることに気づきます。

『時間を金で売っているような気がする』

常々そのフレーズを頭によぎらせながら働くナガセにとって、この気づきは自分の現状をさらに虚しくさせるものでした。しかし、ならばいっそ1年間自分が時間を売って得たお金で世界一周してやろうという、なにくそ根性が顔を出します。

二人暮らしの母とのカツカツの生活。価値観のズレた友人との付き合い。放っておけない友人母娘の面倒。抱えるものが多いナガセの日常のなかで、この「世界一周」というワードがいつのまにか心の拠り所となり、恵まれない環境にぼやきながらも、どうにか毎日を乗り越えていくというストーリーです。

 

私たちの日常は努力さえすれば目標にまっしぐらに進めるような、そんな整備された道を走るわけではありません。自分の力ではどうにもならない問題や周囲からの影響に惑わされながら前進後退を繰り返します。

それでも、自分には目標がある、現状から抜け出す選択肢もあるのだと思えることは、その苦しい日々を乗り越える強い味方となり、心を弾ませてくれる刺激となります。

そんなに頑張らなくていいと胸が締め付けられる場面もありますが、最後は爽やかに終わっていて気持ちよかったです。

 

併録されている『十二月の窓辺』も同じくお仕事小説。パワハラ被害で自分の心がすでに麻痺していることも冷静に客観視できているのに逃げられない、そんな息の詰まる状況がありありと浮かびますが、やはり津村さん。話の展開がうまいというか、人の心が軽くなる瞬間、決意を下すきっかけみたいなものを絶妙な描写で綴っています。

2020年は津村作品すべて読破したいです。

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