唯川恵さんの小説は過去にも読んだことがありましたが、そのどれもが恋愛もの。ドロドロとした恋愛模様を描く唯川さんに自然に身を置くイメージがなかったので、登山をしてらっしゃる方と知り正直驚きました。
これはエッセイ本ですが、蔦屋書店の登山コーナーで見つけました。最近の本屋さんは小説・実用書・参考書・・など本としてのカテゴライズを飛び越え、テーマ別でいろんな系統の本を並べてあるところも多いですね。目に留まる本の幅が格段にに広がった気がします。これが本屋に繰り返し足を運びたくなる大きな理由です。
さて、このエッセイ。筆者・唯川さんの山との出会いから綴られているのですが、それというのが、犬のために軽井沢に引っ越したことがきっかけだというから驚きです。登山に全く興味がなかった人間も引き込んでしまうのだから、やっぱり山には不思議な魅力があるのだと思う。そして、愛犬の死後の喪失感を癒してくれたのもまた登山であったことから、自然の包容力というのは何物にも代えがたいものだと感じます。
本書は登山レポートの感覚でも読めますし、”山を登る”という行為そのものの楽しみも教えてくれます。そして、いつも隣を歩く夫・リーダーの存在がとても心強い。私自身、経験を積んでいくなかで慎重さが欠けてしまうという意識が確かにあります。しかし、作中のリーダーの厳しい言葉や賢明な判断に襟が正される思いがしました。初心を忘れてはいけない。山へのリスペクトも忘れてはいけない。これが登山をする者の最低限の心構えです。
最後に、この本でも触れられていた、田部井淳子さん。登山用具も決して今ほど機能的ではない時代に女性登山家として名を馳せた功績はとても大きい。唯川さんが尊敬の意を込めて半生を描いた『淳子のてっぺん』もぜひじっくりと読んでみたいと思います。
コメント