小説

つまらない住宅地のすべての家 津村記久子

津村記久子さんの最新刊。『つまらない住宅地のすべての家』です。

発売を楽しみに待っていました。少し時間が経ってしまいましたが、紹介します。

今回はなんかもう、タイトルから津村ワールドが溢れ出ているような気がします。パラっと最初のページをめくれば、とある10世帯の住宅地の地図が載っています。果たしてこの住宅地を舞台にどのような話が展開されていくのか、出だしからもうワクワクです。

逃亡犯とご近所さん

「刑務所から女性が脱走」そんな物騒なニュースが世間を賑わせた頃、この住宅地の人々はそれぞれに問題を抱えていました。母親が家を出て実は二人生活の父子、ストレスから幼児誘拐を企む青年、息子の行動に悩み軟禁を考える夫婦、母親にまともに面倒を見てもらえないネグレクト状態の姉妹、裕福でありながら常に衝突だらけの一家。ご近所付き合いもなく、互いに何も知らず挨拶だけを済ます日々。しかし、逃亡犯がこの住宅地に近づいているという噂をきっかけに、少しずつその希薄な関係が動きを見せ始めます。Aから見たB、Bから見たC、そして、Cから見たA。れぞれの視点、さまざまな価値観が映す”ご近所さん”がおもしろい果たして、住宅地の人々が起こす行動とは。そして、この逃亡犯がこの住宅地に近づいた目的とは最後までドキドキの内容です。

隣の芝生は青くなんかない

自分に当てはめてみても、やはり”ご近所さん”の実態など全くと言っていいほど知りません。たまに顔を合わせれば、愛想よく挨拶をし、当たり障りのない立ち話ぐらいで終了。抱えている問題を打ち明けることはなく、大事にならない限りは悟られることも少ないはずです。近所に住むからこそ詮索しない、というのも今の時代はひとつのマナーになっているのかもしれません。そんな近くて遠い人間関係の実態を描いた、津村さんお得意の群像劇。あの人はこうかもしれない、この人にはこう見られているかもしれない、といろいろと想像が膨らみます。そして同時に「隣の芝生は青い」という心理がやはり軽はずみであることを思い知らされます。みなそれぞれが葛藤や苦しみを抱えながら必死に生きてるんだよなぁとそんなことをぼんやりと考えながらこの本を閉じました。

やはり津村作品にハズレなしです。

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