雫井脩介さんの『火の粉』を読みました。
終始ゾクゾクしっぱなしのサスペンス小説!とてもおもしろかったです。
どんなおはなし?
元裁判官で、現在は大学教授を務める梶間勲の隣家に、かつて無罪判決を下した男・武内真伍が越してきた。愛嬌ある笑顔、気の利いた贈り物、老人介護の手伝い…武内は溢れんばかりの善意で梶間家の人々の心を掴んでいく。手に汗握る犯罪小説の最高傑作。
「BOOK」データベースより
読んだ感想
武内本人の語る言葉に嘘くささはなく、苦労人ながらも広い心を持ちあわせた、よくできた人間のように映ります。
「やはりこの人は犯人ではないのでは?」そう思わされる瞬間が何度もありました。
しかし、物語が進むにつれ、少しずつ募っていく気味悪さ。
彼をよく知る人々の証言から浮かびあがってくる人物像は、まるで別人のように危険な男。「もっと自分を求めて欲しい」、「ちゃんと見返りが欲しい」ーーそんな欲望が、ここまで人間を狂わせるのかと背筋が寒くなりました。
本作のおもしろさは、サスペンスの枠にとどまりません。裁判長としてキャリアを積み重ねてきた勲の葛藤もまた深く印象に残ります。
世論に流されず、客観的事実だけをもとに判決を下してきたというプライドを持つ勲。しかし、いざ自身に火の粉が降りかかると、その自信は揺らぎはじめます。自分は死刑判決という重責から逃げただけではなかったか。そう自問しながら、ついにそのプライドを取っ払うときがきます。
本性を現しはじめた武内と、真実を追い詰めようとする勲のデッドヒートは息をのむ展開に。
「どうもあなたは肝心なときに決断を下せないんじゃないか…」という、勲をよく知る検事の皮肉めいた言葉が最後に効いてくるのも巧妙でした。
静かに、しかし、確実に緊張感が高まっていく構成。
ほかの雫井脩介さんの作品も読んで見たいです。
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