ひとりのOLのコピー機との戦い。
こんなテーマで小説を書けるのは、やはり津村さんしかいないと思う。
津村記久子さんの『アレグリアとは仕事はできない』が最高におもしろかった。
ミノベは地質調査会社で事務として働くOL。コピー機に悪態をつく冒頭のシーンから、さては機械音痴な人間か?と思ってしまったが、そうではなく、むしろ逆。不器用な道具や機械たちをも、使う側の工夫できちんと活躍させる、とても器用な人間である。
ミノベは道具や機械が好きだった。彼らは、その特徴を研究し、うまく協調するようにしてやると、どんなに態度の悪いものでもそれなりの範囲での力は発揮してくれるようになる。それは、移ろいやすい人間の気持ちなどよりはよほど誠実なもののようにミノベは思える。(P14)
ただ、商品名”アレグリア”というコピー機にはいつまで経っても手こずっていた。頻繁な「ウォームアップ中」の表示が何度もミノベの仕事を滞らせては、よきせぬタイミングであらゆるエラーを訴え出す。そのくせ、男性社員が多用するスキャン機能は順応に従うところも怒りを増幅させた。
しかし、ミノベが最も腑に落ちないのは、その苛立ちを共有する相手がいないことである。周囲は「複雑な機械だから仕方ない」という冷静な態度で、”アレグリア”の怠慢を大して気にもとめない。ミノベほど機械と本気で向き合う人間はそういないのである。周りとの機械への感情移入の度合の差が、ミノベの心をますますすり減らしていく。
先輩、上司、他部署の社員、サポートセンターの女、メンテナンス業者の男。1台のコピー機から、それぞれの人間の本性があぶり出されていく過程がおもしろい。
そして、”アレグリア”に隠されたある秘密が明らかになる頃、ミノベはようやく孤独な戦いから解放される。
組織に属する者なら誰もが共感する辟易と苛立ちをリアルに表現した、津村さんらしいお話でした。
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