小川糸さんの新刊『とわの庭』を読みました。
装丁デザインがとても素敵な本です。
さて、小川糸さんというと、ご自身の経験からか母親との確執を背景に描いた物語が多いですが、この小説もまた”母の歪んだ愛”が物語のベースになっております。
母親に置き去りにされた盲目の少女、とわ。ちいさな家でひとり母親の帰りを待ち続けます。
残酷で悲惨な状況に胸がつまりながらも、とわの暮らしはどこかおとぎ話のよう。
小鳥の声、花木の匂い、風の肌触り。
やさしさが滲む小川糸さんの世界観に心が救われます。
目が見えないからこそ見えるものがある。視覚以外の感覚を研ぎ澄ませ、とわの無限の想像力がただひたすら生きる気力を掻き立てます。
その強靭な生命力の末、やがてとわは孤独の世界から抜け出し、たくさんの人の手を借り、遅ればせながらも人としての成長を歩んでいきます。
そして、友をつくり、恋に落ち、お金を稼ぐ喜びを知る。
そのひとつひとつに生きている感動と感謝を繰り返すとわ。その姿がとても愛くるしい。
そして、30歳の誕生日に遠い記憶の母に思いを馳せる場面。
すべてはここから始まって、そしてまた戻ってきた。わたしの人生の端っこと端っこが結ばれて、丸い形のリースになる。その、いびつだけれど美しい円の中に、わたしと、そして母さんの人生がある。(P245)
母親はひどい人間かもしれない。世間はきっと母親の人間性全てを否定するだろう。
それでも、自分には母に愛されていたという確かな記憶がある。
その事実がとわにとって、生きていくうえでどれだけ大切であろうか。
この世界には美しいものがある、それらひとつひとつをこの手で慈しみたいと願うとわの心はとても健康的で大きな愛で満ちています。
それはきっと母の愛で耕された栄養たっぷりの地盤があるからなのだと私は感じます。
胸がぎゅっと詰まったり、解放されたり、あるいは自然の安らぎに身をゆだねたり。いろんな気分や景色を味わわせてくれる一冊でした。
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